2016年5月31日火曜日

「卯浪」という季題

先日のある句会にて「卯浪」という兼題が有りました。しかし、どうもこの季題の研究が十分では無かったようで、詠めていない句がかなりありました。この季題をホトトギス新歳時記で見てみると、「陰暦4月(卯月)のころ、波頭白く海面に立つ浪をいう。」とあり、角川合本歳時記では「卯月(旧暦4月)ごろに立つ波のこと。このころは天候が不安定で波が立ちやすい。(後略)」とあります。

シベリアから張り出した寒気団と、南方から吹き込んでくる暖かい空気とが日本列島の上でぶつかり合い、急に天候が変化したり、突風が吹いたりします。このため、突然波が高くなることが有ります。海面に白波が立ち、あたかも海面を白兎が跳ねているような景観を呈します。私も若い頃、しばしば乗合船で海釣りに出掛けましたが、船頭が船を出すのを嫌がるほど、高い波が立ったことが有りました。

つまり、卯浪とはこのような波なのです。ひたひたと寄せて来る波では有りません。二つの歳時記に共通しているのは、荒い波である事です。因みに私は、小さいなみを波、大きいなみを浪、断崖に打ち付けるなみを濤として使い分けています。

     貝拾ふいつもの浜辺卯浪寄す
  海の面きらりと光り卯波立つ

その句会で出された句ですが、卯浪の感じではなさそうです。

  雲垂れて波が風呼ぶ卯浪かな
  せめぎ合ひ鳴門の卯浪飛沫立つ

これらの句はに卯浪らしい趣が有ります。

卯浪と卯波、どちらが正しいのか、という質問が有りました。ホトトギス新歳時記では卯浪、角川合本歳時記では卯波が季題となっています。どちらが正しいという事ではないと思いますが、私は浪の方がイメージに合うように思います。

  渦巻きていよいよ高き卯浪かな      伸一路