2016年12月9日金曜日

「冬うらら」という季題

先日、千鳥句会の吟行で、西宮市名塩の紙漉場を訪ねました。人間国宝のご当主の饒舌は、昔と少しも変わりません。歳を取られましたが、お元気そうで何よりでした。息子さんが後継者として修業を積んでおられ、将来が楽しみです。さて、その際の句会で、次のような句が出されました。
 
      紙を漉く人間国宝冬うらら

「うらら」は、ご存じのように春4月の季題である「麗か」の傍題です。しかし、ホトトギス新歳時記には「麗か」という季題は有りますが、「冬うらら」という季題は有りません。汀子先生は、冬には「小春」や「冬日和」という季題が有るのでこれを使うべきだ、と解かれています。

「麗か」という季題には、長閑に吹く春風の、空気の温みと適度の湿気を感じますが、「冬日和」にはこの様な長閑なイメージはありません。淡く温かい光は有るものの、冷たく乾燥した空気を感じます。つまり、「麗か」とはかなり違った季節感であり、「冬うらら」を季題とすることに抵抗があるのです。

一方、角川合本歳時記には「冬麗」という季題があり、「冬うらら」」はその傍題です。どちらが正しいという事ではありません。私はホトトギスの俳人ですので、ホトトギス新歳時記に依って作句します。従って「冬うらら」という季題は使いません。

しかし、角川合本歳時記という、現代の日本を代表する歳時記が収録しているのですから、無視することは出来ません。私は、「冬うらら」を季題とした作品であっても、優れたものであれば、選に頂きたいと思っています。